掃除が苦手だと感じる人はけっこう多いと思います。でもある程度ごみが増えてくるとわずらわしくなりさて今日は掃除でも!という気持ちになるものです。おそらく、一般人には清掃リミッターのような器官が備わっているのでしょう。
ですが、そのリミッターが完全に外れているのではないか、と思わざるをえない人物がまれに存在します。それが私の友人Tでした。Tの部屋には重力が存在していませんでした。
さまざまな書物、電化製品、その梱包材のダンボール、衣服、そして悪臭を放つ生ごみがウエーブを成していました。さながらその光景は巨大なおろちがとぐろを巻いているかのようです。そのため誰でもTの部屋に入ると斜めに立たざるを得ないのです。
また、自分の小物にも注意しなければなりません。私は魔境とも言えるTワールドで500円玉をうっかり落とし、ついに捜し出せなかった苦い思い出があるからです。ここで自宅の鍵を落としでもしたら大ごとです。つねに緊張を強いられる部屋でした。生ごみだけでも捨ててはどうか、なんなら手伝うよと言う周囲の声にも耳を貸さずTは己の矜持を貫きました。まさに真の漢と言えるでしょう。
その後、Tは身体を壊しました。言葉は悪いですが不幸中の幸いです。家族が訪れ、黙々と清掃を開始してかろうじて原状回復40パーセントを達成、Tはその部屋から一陣の風とともに去りました。
そして現在は向かいのマンションで営々と更なるTワールドを構築しているようです。Tの人生に幸あらんことを。
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